協力ゲームについて

皆さんこんばんは! 松井ゼミ生の猿谷です(^-^)


今回から、松井ゼミで去年勉強したテーマや今年勉強するテーマについて、何回かに分けて軽く紹介していきます。
はじめに、去年の夏学期に勉強した「協力ゲーム」について、具体例を交えつつ紹介します*¹。



協力ゲーム(Coalitional game)理論とは、プレイヤー同士が拘束力のある合意に基づいて提携(Coalition、グループみたいなもの)を組むような状況を分析する理論です。
まずは、皆さんになじみの深いであろう非協力ゲームとの対比によって協力ゲームとは何かということを説明していきます。


皆さんが駒場で学習してきた「囚人のジレンマ」のように、プレイヤー同士が独立に行動して、結果として一人一人の利得が決まるような状況を表すゲームは非協力ゲームと呼ばれます。非協力ゲームでは、プレイヤーの集合、各プレイヤーの行動計画である戦略、そして利得がカギとなります。

このような状況に対して、協力ゲームでは、プレイヤー同士が提携を組み、1つ1つの提携に対して利得が1つずつ定まります*²。協力ゲームの分析にあたりカギとなるのは、プレイヤーの集合と、特性関数と呼ばれる、各提携に利得を与える関数です。


以下のような具体例を見てみましょう。
3つの国(ギリシャ、ドイツ、フランス)をめぐる状況を考えます。
各国は単独で行動しても利得が0だとします。 
また、3つの国が協力すれば、ギリシャ財政問題が解消し、フランスの銀行の資金繰りが改善し、ドイツの輸出も回復して、3国は合計で10の利得を得られるとします。
さらに、ギリシャとドイツ、ギリシャとフランスが提携した場合は、2国に対してそこそこのメリットがあり、どちらの場合も2国で合わせて5の利得が得られるとします。ただし、ドイツとフランスが提携しても、多少のメリットはあるものの財政問題の解決ができないし喧嘩ばかりするので、利得は2国合わせて2しか得られないとします。


このような状況を協力ゲームとして定式化すると以下のようになります。
Nはプレイヤー集合、vは特性関数を表します。

N={希、独、仏}     ただし、希=ギリシャ、独=ドイツ、仏=フランス
v({希})=v({独})=v({仏})=0
v({希、独})=v({希、仏})=5、v({独、仏})=2
v(N)=v({希、独、仏})=10

ごらんの通り、利得はそれぞれの「提携」に対して割り当てられており、それぞれの「国」がいくらの利得をもらえるのかという点に関してはこれだけでは分かりません。


そこで、各国がそれぞれいくらの利得をもらう状況が現実的に起こりそうかという点に関して説明する概念が必要となります。このような概念にはコア、シャープレイ値、仁など色々なものがありますが、ここでは僕達が学習したコアについて説明します。


コアは、非協力ゲームにおけるナッシュ均衡に近い概念で、「各プレイヤーが提携から逸脱するインセンティブを持たないような状態」を達成する配分の集合です。


先程の例に即してみてみましょう。
例えば、3国が提携した時に実現できる配分の一つ、
(希、独、仏)=(3、4、3)
はコアに含まれます。なぜかというと、各国はこの提携から単独で逸脱しても利得は0で、現状よりも利得を高めることができないからです。同様に、例えばギリシャとドイツが逸脱して新たに提携{希、独}を組んでも、両国は合計で5の利得しかもらえず、両国の利得を共に高めるような配分は存在しません*³。各国は、3国提携で実現する配分(3、4、3)を受け入れそうです。
これに対し、
(希、独、仏)=(1、7、2)
という配分はどうでしょうか? この配分はコアではありません。なぜなら、この配分のもとで仮にギリシャとフランスが3国提携から逸脱して新たに提携{希、仏}を組めば、両国は合計で5の利得をもらえるので、これを(希、仏)=(2、3)のように分ければ、両国とも元の3国提携の時にもらっていたものよりも高い利得をもらえるからです。(希、独、仏)=(1、7、2)という配分は、ギリシャやフランスの反発にあうため、実現しそうにありませんね。



この例のように、協力ゲームは世界各国の力関係や交渉力を分析するのに役立ったりします。
協力ゲームについてもっと知りたい!という人のために、注4に平易な参考文献を挙げておきます*⁴^^



ではでは^^。次回は冬学期に学習したグローバル・ゲームについて紹介します♪






注)
1 使用したテキストはOsborne and Rubinstein『A Course in Game Theory』という本です。表紙のデザインがなかなか素敵で、読み終わった後も部屋のインテリアに活用できそうです^^

A Course in Game Theory (The MIT Press)

A Course in Game Theory (The MIT Press)

2 このようなゲームは、提携が得られる利得を提携の参加者の間で自由に分けられるということを前提にしており、「利得移転可能な協力ゲーム」と呼ばれます。これとは別に、提携1つに対して各参加者の利得を個別に定める「利得移転不可能な協力ゲーム」というものもあります。
3 例えば(希、独)=(4、1)という配分を考えると、ギリシャにとっては元の3国提携での配分よりも高い利得をもらえて嬉しいですが、ドイツにとっては元の3国提携での利得の方が高いので、ドイツはこのような提携を組もうとはしません。つまりドイツは(希、独、仏)=(3、4、3)から逸脱しようとはしないのです。
4 武藤滋夫『ゲーム理論入門』日経文庫
  船木由喜彦『演習ゲーム理論新世社
などが協力ゲームについて分かりやすく説明しています。