グローバル・ゲームについて

皆さんこんにちは、またまた猿谷です^^
今日は昨年度の冬学期に学習した「グローバル・ゲーム」について軽く紹介します*¹♪


グローバル・ゲームは、ナッシュ均衡が二つあるようなゲームにおいてどちらのナッシュ均衡が実現しやすいのかを分析する、均衡選択の理論の一つです。

例えば下の図1を見て下さい。このゲームでは、θ>1のときは各プレイヤーは相手がどのような行動を取るかに関係なく行動1を取る方が高い利得を得ることができます*²。また、θ<0のときは各プレイヤーは相手がどのような行動を取るかに関係なく行動0を取る方が高い利得を得ることができます。(ただし、各場合において、左の値がプレイヤー1の利得、右の値がプレイヤー2の利得です。)

ところが、0<θ<1の場合には、お互いにとって「相手が行動1を選ぶならば自分も行動1を選んだほうがよく、相手が行動0を選ぶならば自分も行動0を選んだほうがよい」ことになります。つまり、この場合には(行動1、行動1)と(行動0、行動0)という二つのナッシュ均衡が存在し、そのどちらが実現するのか、このままではよくわかりません。


このような状況は、実は世の中にたくさんあるんですよ。


例えば、預金者が一斉に銀行から預金を引き出そうとするために銀行が倒産してしまう、銀行取り付けの問題を考えてみましょう。銀行取り付けは、経営状態に問題がない銀行でも発生します。それでは、どうして銀行取り付けは発生するのでしょうか?

答えは、それぞれの預金者が、「他の預金者が揃って銀行から預金を引き出そうとするかもしれない。そうすると、銀行の資金が枯渇して、自分の預金がパーになってしまうじゃないか!ならば自分も今のうちに預金を引き出しておく方がいいな。」と考えるからです。つまり、銀行取り付けは、「他人が預金を引き出す」という予想が生じると実際に預金者が銀行に殺到し、自己実現的に発生してしまうのです。

逆に、それぞれの預金者が「他の預金者は預金を引き出さない」と予想している場合はどうでしょうか? この時は、「銀行に預金を引き出す預金者が殺到するような事態は起こらないから、銀行は破たんしない。すると、自分は来年になれば無事に預金と預金の利子を手に入れることができそうだな。使わないお金は引き出さないで銀行に預けておいた方がいいな。」と考えて、預金者は預金を引き出しません。つまり、「他人が預金を引き出さない」ならば自分も預金を引き出さない方が良いわけです。

まとめると、銀行の経営に特に問題がない場合には、他人が預金を引き出さないならば自分も引き出さない方が良く、他人が引き出すならば自分も引き出す方が良いことになります。このため、「全員が預金を引き出す」状態と「必要のない人は預金を引き出さない」状態はどちらも、あたかもゲーム理論ナッシュ均衡のような状態であることが分かります。
例えば上の図1で行動1を「引き出さない」、行動0を「引きだす」と考えて見てみてください。



グローバルゲームを使えば、このように二つのナッシュ均衡が存在するときに、どちらの均衡が実現しやすいのかを分析することができます。
グローバルゲームでは、例えば図1のゲームにおいて「各プレイヤーはθのだいたいの値しかわからない」という状況を想定します、そして、各プレイヤーの期待利得を計算していくことで、各プレイヤーがどちらの行動を取る方が良いのかを分析することができるのです。

例えば図1のゲームでは、θがある程度大きな場合には(行動1、行動1)という均衡が実現しやすく、θがある程度小さな場合には(行動0、行動0)という均衡が実現しやすいことを分析できます。


グローバルゲームは、銀行取り付けに限らず、通貨危機や投資の意思決定など幅広い現象の分析に役立ち、現在も盛んに研究されている熱い分野です(^^)
松井ゼミでは、学生の希望に基づいて、このような新しい分野、熱い分野を勉強することもできますよ♪ 先生も博識なのでいろいろなテーマについて教えて下さったり、文献を紹介して下さります。


なんだか分かりにくい文章になってしまってごめんなさい(..)
これからも、ブログを通して勉強だけでなくゼミでのさまざまなイベントを紹介していくので、ぜひぜひ読んでみてくださいね♪







注)
1 冬学期は以下の論文を使って勉強しました。
Morris, S. and H. S. Shin (2000) “Global Games: Theory and Applications”
2 この場合の「行動1をとる」という戦略のように、相手の戦略に関わらず自分にとって他の戦略よりもある戦略を取る方が望ましいときに、その戦略を「支配戦略」といいます。